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水戸地方裁判所 平成8年(わ)715号 判決 1997年2月07日

本籍

福島県田村郡都路村大字古道字小滝沢一二一番地

住所

茨城県鹿島郡神栖町大野原三丁目一一番一五号

溶接加工業

安達弘

昭和二〇年一一月一〇日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官佐藤光代及び弁護人関周行各出席のうえ審理して、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金一六〇〇万円に処する。

右罰金を完納しえないときは金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、茨城県鹿島郡神栖町に事務所を設けて溶接加工業を営んでいるものであるが、自己の所得税を免れようと企て、架空の給料賃金及び外注費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  平成四年三月一〇日、茨城県行方郡潮来町大字延方甲一三五八番地所在の潮来税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の実際総所得金額が一億二九九一万五三九円であったにもかかわらず、その総所得金額が六九一六万八〇二〇円で、これに対する所得税額が二三一九万八〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額五三五六万九〇〇〇円と右申告税額との差額三〇三七万一〇〇〇円を免れ

第二  平成五年三月一五日、前記潮来税務署において、同税務署長に対し、平成四年分の実際総所得金額が一億六八〇万三六七四円であったにもかかわらず、その総所得金額が六四四〇万五三一六円で、これに対する所得税額が二一三六万九〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額四二五六万八〇〇〇円と右申告税額との差額二一一九万九〇〇〇円を免れ

第三  平成六年三月一〇日、前記潮来税務署において、同税務署長に対し、平成五年分の実際総所得金額が九三八七万三〇〇九円であったにもかかわらず、その総所得金額が五一四二万八七五〇円で、これに対する所得税額が一四七一万五五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額三五九三万七五〇〇円と右申告税額との差額二一二二万二〇〇〇円を免れた。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成八年九月一一日付け、同月一三日付け、同月一六日付け、同月一七日付け(二通)、同月二一日付け(二通)、同月二三日付け(「今日は、青色申告のこと」で始まるもの)及び同月二五日付け(本文七丁綴りのもの)各供述調書

一  石垣明正、安達雪子(二通)及び斉藤洋二郎(二通)の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の売上金額調査書、仕入金額調査書、期末商品棚卸高調査書、期首商品棚卸高調査書、福利厚生費調査書、給料賃金調査書、外注費調査書、貸倒引当金繰戻額調査書、青色専従者給与額調査書、貸倒引当金繰入額調査書、事業専従者控除額調査書

一  潮来税務署長作成の回答書

一  検察事務官作成の捜査報告書

判示第一、第二の事実について

一  大蔵事務官作成の利子割引料調査書、不動産所得の青色申告控除額調査書

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の不動産所得の青色申告特別控除調査書

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を併科し、かつ判示各罪につき情状により同条二項を適用することとし、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一〇月及び罰金一六〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、溶接加工業を営んでいた被告人が、平成三年から平成五年の三年分にわたり合計七千万円余りの所得税を免れたという所得税法違反の事案である。その犯行態様は、主に給料賃金や外注費の架空及び水増し計上という事業経費を過大にして、所得金額を過小に記載した所得税確定申告書を提出するという計画的で悪質なものであり、被告人の納税意識の欠如は甚だしいといわなければならない。また犯行の動機は、事実の業績が将来悪化した場合に備えて裏金を確保すること、被告人本人や家族の将来のため蓄財をしておきたかったこと、以前から税金をかなり取られているという意識があり、税金は少ないほどよいと考えていたことであり、特に斟酌すべき事情とは認められない。本件のような脱税事犯は誠実な納税者の納税意欲を喪失させる反社会的な行為であることもあわせ考えると、被告人の刑事責任は重大である。

しかしながら、他方被告人は本件発覚後修正申告をして、所得税、重加算税、延滞税を完納していること、ほ脱率が通算して約五五パーセントと比較的低いこと、事業面についても経済的制裁を受けていること、犯罪事実を全て認め反省し、従来の経理体制を一新し明瞭な会計処理をするなどの事後的措置を講じていること、被告人には業務上過失傷害による罰金刑以外に前科がないことなど、被告人に有利ないし酌むべき事情も認められ、これらの諸事情を総合考慮し、懲役刑については執行を猶予し、ほ脱額及びほ脱率等を総合考慮し、罰金刑を主文のとおりとするのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一〇月及び罰金二〇〇〇万円)

(裁判官 駒井雅之)

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